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ニッポンの中のアジア まかりとおる推定有罪 #8
 
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無実の張禮俊さんへ

                                                                                                                                            2008年11月28日


 すっかりご無沙汰が続いてしまいましたが、お元気で毎日をお過ごしでしょうか?

9月以後はどこか別の場所に移られ、きっと新しい環境でお忙しくなさっていると思い、ちょっとお手紙を控えていました。先日、客野さんに張さんの住所を尋ねたところ、まだ同じ場所だと伺い、こうしてまたお便りをしている次第です。

 場所は同じでも日々の生活はがらりと変わったのでしょうね。お体など変調はありませんか? 寒くなってきたのでどうぞくれぐれもご自愛下さい。



さて、ずいぶん前のことになりますが、外国人収容者のためのガイドブックのコピーを客野さんから頂き、拝読した上である県警のもとで取り調べ時の通訳や司法通訳をしている友人に渡しました。中国語通訳の彼女は、社会人になってから日本の大学院で勉強をしたほど熱心で常識と正義感にあふれた人です。語学能力も非常に高いです。日本語のわからない被告人の世話もしています。そんな友人が、張さんのガイドブックを見て大変感心し、自分自身の勉強にもなるし、現場に役立てたいと言ってくれました。きっとそばに置いて役立ててくれているでしょう。この場を借りて彼女の分もお礼を申し上げます。



私はこの数ヶ月留守勝ちでしたが、先月は大韓航空を使ってカンボジアへ行きましたので、仁川空港に降り立ちました。ああ、張さんのお国だなあと強く感じながら。カンボジアと韓国は直行便が多く飛んでいるので、韓国からの観光客がたくさんです。

何度も地元の人から「アンニョンハセヨー」と声をかけられました。韓国企業も投資をしていますが、世界同時金融危機のおかげで投資マネーが引き揚げ始めたとか。世の中は不景気なはなしばかりです。カンボジアの前に訪れた台湾でも、深刻な不況が影を落としていました。

 台湾で現在大ヒットしている映画がただひとつ勢いがありました。これは『海角七号』というタイトルですが、現在韓国でも香港でもシンガポールでもヒット中です(日本の公開はまだ未定)。若者のラブストーリーなのですが、60数年前の日本と台湾の淡い恋物語を重ね合わせています。すなわち、敗戦国の国民となった日本人教師が、台湾から引き揚げる際に船の中で綴った女性への7通のラブレターが胸を打ちます。その男性が亡くなったあとにタンスの奥から見つけた手紙の束を、娘が、昔の住所を頼りに送るのです。しかし、もはや住所は変わって手紙は届きません。それを現代の若者(主人公はミュージシャンだが、夢に破れて田舎へ戻った郵便配達夫)たちが探し当てて、老女となった元恋人に届けるという話し。戦争をとおしてふたつの国の実情が上手く描かれています。台湾では似たような話がずいぶんあったそうですが、韓国でも、もしかしたらこういう話しが実在しているのではないでしょうか。

今ではすべてパソコンのメールで済ませる世の中ですが、手紙はいいものだなあとつくづく思いました。実は私がそのことに気付いたのは、こうして張さんと手紙のやりとりをさせて頂くことになってからです。



 どうぞ今後も強い信念と希望を持って日々をお過ごし下さい。なお、お返事は不要です。数少ない手紙の交信機会を、ほんとうに必要な方々とのやりとりに使って下さい。

暗い夜の次には必ず夜明けが来る!お風邪など召しませぬよう、くれぐれも気をつけて下さいね。また、お便り致します!

平野久美子